(フィクション)
1.メビウスメディカルとメビウス出版

今日のお話はたわいのない世間話…。

「あれ?今日はメビウスメディカルの取締役会でしたっけ?」
「そうですよ!深雪さん!すでにみんな会議室に詰めてるんですから!」


…まあ、この私を起こし呼びに来たのが、吹雪有紀。経済誌では「医薬界の新興勢力」として大騒ぎされている、メビウスメディカル株式会社の社長なのです。

「変な感じですよねー。会社の規模じゃメディカルとじゃ比較にならないくらいの小ささなのに、その大会社の社長の方が急かしにやってくるとか。経済誌の記者さんとかが見たらどんな感じに思うんでしょうね…。」
この大口を叩いているのが、神谷静香。弱小会社である当社の唯一の正社員兼秘書。記者はほとんど契約社員です。なぜ、そんな会社の社長である私がメビウスメディカルの取締役であるかと言うと…。正直、私も皆目見当がつかない。

…もちろん、どういう手続きを経てどうなっているのかという事自体は判ってはいて、その黒幕が誰かというのまでは調べがついているのだけど、なぜなんの意図でそういう事をやっているのかというのを調べようとすると、大抵それどころではない役職が増えてくる。その黒幕とは、「今の」戸籍上の妹であり、悪い人ではないようだし、命の恩人ではあるのだけど、正直イマイチよくわからない人だ。

「まあ裏があったとしても、ユウさんがいなければお互い今頃、どこかで野垂れ死にしてるだろうし、万が一があってもそれが長引いただけですよ。楽しまなきゃ。」

そうなのだ。有紀はいつもそう。いつもそんな言葉で、前向きに気持ちが切り替わる。

「じゃあ、静香さん。留守番よろしくね!」

そう言って、有紀の車に乗り込む。

「ところで、有紀。今日はなにを話し合うんだっけ。」
「わかりません。…ユウ相談役が緊急事案って言ってましたけど…。」

少々不安を持ちながらも、そのままメビウスメディカルの会議室に向かう。

「遅れました!」

そう言って、席に着くと同時に資料に目を通す。通常は、前夜か移動中に確認をするのだけど、緊急事案だから…って

「…ちょっと待って下さい。何ですがメビウスメディカル主催 吹雪深雪・有紀 結婚祝賀会って。」
「何って、仮にも大企業の社長と取締役が婚姻を結んでいるのに、いつまでも書類上だけって訳にもいかないでしょ?」

…有紀と名字が同じなのは、私と同じように彼女の家に養子に入ったものだとばかり思っていたのですが…。

「有紀さんは異議はないのですが?私の過去は以前お話しましたよね?それでも構わないのですか?」
「はい。ふつつかものですが…」
「…それ、私のセリフだよ…」

後で思ったのですが、そんな悶着が目の前であったのに、普通にその議案が通ってしまうこの会社って、変な会社ですよね。

今日の話は、たわいのない世間話です。…少なくとも当人達にとっては。

ここは月刊メビウス編集部/つづく)